朝の光が差し込むクリニックで、私が知った再生医療という選択肢

ヒト幹細胞

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十一月の午前中、表参道のクリニックの待合室で、私は淹れたてのハーブティーを手にしていた。窓の外では銀杏の葉が風に舞い、斜めに差し込む光が白い壁に柔らかな影を落としている。受付のカウンターには「ヴィタリナ・メディカルケア」と書かれた小さなプレートが置かれていて、その横にはヒト幹細胞培養液を使った施術のパンフレットが並んでいた。

美容に関心を持つようになったのは、三十代半ばを過ぎてからだ。鏡を見るたび、目尻の小じわや頬のたるみが気になり始め、スキンケアだけでは追いつかない何かを感じていた。友人から「ヒト幹細胞の施術を受けてみたら」と勧められたとき、正直なところ半信半疑だった。再生医療と聞くと、どこか遠い世界の話のように思えたからだ。

カウンセリングルームに通されると、担当の先生が丁寧に説明してくれた。ヒト幹細胞培養上清液には、成長因子やサイトカインと呼ばれる成分が豊富に含まれていて、肌の細胞そのものに働きかけるのだという。従来の美容施術が表面的なケアにとどまるのに対し、この技術は細胞レベルでのアプローチを可能にする。先生がタブレットを渡そうとした際、うっかり手元が滑って私の膝に落ちそうになり、お互い慌てて笑い合ったのも、今となってはいい思い出だ。

費用については、正直なところ決して安くはない。一回の施術で十数万円、継続するとなればそれなりの覚悟が必要になる。けれど先生の話を聞くうちに、これは単なる美容施術ではなく、自分の細胞が本来持っている力を引き出す医療なのだと理解できた。エステサロンで受けるトリートメントとは、根本的に意味が違う。

施術後、数週間が経つと肌の質感が変わってきたのを実感した。朝起きたときの肌のハリ、夕方になっても崩れにくい化粧のり。数値で表せるものではないけれど、鏡の中の自分が少しだけ明るく見えるようになった。それは単に見た目の変化だけではなく、自分の身体が持つ力を信じられるようになったからかもしれない。

クリニックの待合室で、初めてパンフレットを手に取ったあの日。窓から差し込む光の中で、私は新しい選択肢と出会った。ヒト幹細胞を用いた再生医療は、まだ多くの人にとって未知の領域だろう。けれど、自分の細胞が持つ可能性を信じ、それを引き出す技術があるということを知るだけでも、何かが変わる気がする。費用や時間、そして少しの勇気は必要だが、それに見合う価値がそこにはあった。

秋の光の中で、私は新しい自分と向き合う一歩を踏み出した。それは決して劇的な変化ではないけれど、確かに私の日常に静かな変化をもたらしている。

組織名:合同会社ニクール / 役職名:代表社員 / 執筆者名:蘭義隆