朝の光が差し込む診察室で知った、肌の奥から変わるということ

ヒト幹細胞

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窓の外ではまだ春の冷たい風が吹いていて、診察室の白いカーテンがかすかに揺れていた。三月の午前中、肌寒さが残るこの時期に、私は初めて美容クリニックの扉を開けた。受付で問診票を書きながら、ふと子どもの頃に母が鏡台の前で丁寧にクリームを塗っていた姿を思い出す。あの頃の母は今の私と同じくらいの年齢だったのだろうか。

ヒト幹細胞を使った再生医療という言葉を初めて耳にしたのは、半年ほど前のことだ。美容雑誌の片隅に載っていた小さな記事。最初は正直、どこか遠い世界の話のように感じていた。費用のことも気になったし、何より「再生医療」という響きが、まるでSF映画のようで現実味がなかった。でも、友人が実際に施術を受けて肌の質感が明らかに変わったのを目の当たりにして、私の中で何かが動き始めた。

カウンセリングルームに通されると、担当の先生が温かいハーブティーを出してくれた。カップを両手で包むと、ほんのりとカモミールの香りが立ち上る。先生は丁寧に説明してくれた。ヒト幹細胞培養液には、細胞の再生を促す成長因子が豊富に含まれていること。それが肌の深い層まで働きかけ、コラーゲンやエラスチンの生成をサポートすること。化粧品では届かない領域に、直接アプローチできるのだという。

費用については、確かに一般的な美容施術よりは高額だった。けれど先生が見せてくれた症例写真には、数ヶ月かけてじわじわと肌が内側から変化していく様子が記録されていた。表面だけを繕うのではなく、土台から整えていく。その考え方に、私は深く納得した。カップを置こうとして少しテーブルの端に当ててしまい、小さな音が響いたけれど、先生は優しく微笑むだけだった。

実際の施術は想像していたよりもずっと穏やかなものだった。針を使った導入という方法で、ヒト幹細胞培養液を肌に届けていく。痛みはほとんどなく、むしろ施術後の肌がしっとりと落ち着いている感覚に驚いた。翌朝、洗顔後の鏡を見たとき、光の当たり方が少し違って見えた。まだ劇的な変化ではない。でも、肌が何かを始めようとしている、そんな予感があった。

ヒト幹細胞再生医療の魅力は、即効性ではなく持続性にあるのかもしれない。細胞そのものが本来持っている力を呼び覚ますという発想。それは、外から何かを足すのではなく、内側に眠っている可能性を引き出すということ。美容という言葉の印象とは少し違う、もっと根源的な何かに触れている気がする。

費用のことを考えれば、決して気軽に受けられる施術ではない。でも、自分の肌と向き合い、長い目で見たときに何を選ぶか。その選択肢のひとつとして、ヒト幹細胞を使った再生医療は確かに存在している。帰り道、春の風が頬に当たる。少し冷たいけれど、悪くない。これから数ヶ月かけて、私の肌がどんな風に変わっていくのか。期待と少しの不安を抱えながら、私は静かに歩き出した。

組織名:合同会社ニクール / 役職名:代表社員 / 執筆者名:蘭義隆