細胞が語りかける、新しい美の選択肢

ヒト幹細胞

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秋口の診療所で、私は初めてヒト幹細胞という言葉に触れた。窓の外では銀杏が色づき始めていて、待合室には淹れたてのコーヒーの香りが漂っていた。美容医療という分野に興味を持ち始めたのは、鏡に映る自分の顔に違和感を覚えたからだった。何かが足りないわけではない。ただ、肌の奥に眠っていた何かが静かに力を失いつつあるような、そんな感覚があった。

カウンセリングの席で、医師は「幹細胞」という言葉を丁寧に説明してくれた。それは私たちの体の中に存在する、いわば修復職人のような細胞だという。傷ついた組織を修復し、新しい細胞を生み出す力を持つ。その能力を活かした再生医療が、今、美容の分野でも注目されているのだと。

費用について尋ねると、医師はゆっくりと資料を開いた。正直に言えば、決して安い金額ではない。けれど彼女が強調したのは、それが「一時的な処置」ではないということだった。肌の土台そのものに働きかけ、細胞レベルでの変化を促す。だからこそ、持続性があり、自然な仕上がりになるのだと。その言葉には、確かな説得力があった。

子どもの頃、祖母がよく言っていた。「肌は正直だから、ごまかしが効かない」と。当時は意味が分からなかったけれど、今ならその言葉の重みが分かる。表面だけを整えても、内側が疲弊していれば、やがてそれは顔に出る。ヒト幹細胞を使った治療は、まさにその「内側」に語りかける方法なのかもしれない。

医師が差し出したパンフレットには、「セルリバイタ」という治療プログラムの名前が記されていた。幹細胞培養上清液を用いた施術で、肌の再生力を高めるという内容だった。彼女はカップを持ち上げようとして、一瞬手元が狂い、ソーサーが小さく音を立てた。その何気ない仕草が、妙に人間らしくて安心した。完璧すぎる説明よりも、そういう些細な瞬間の方が、信頼できる気がする。

再生医療と聞くと、どこか遠い未来の話のように感じるかもしれない。でも実際には、すでに多くの人がその恩恵を受けている。肌の弾力が戻った、毛穴が目立たなくなった、そんな声が確かに存在している。それは魔法ではなく、私たちの体が本来持っている力を引き出すという、極めて理にかなったアプローチだ。

もちろん、費用の面で躊躇する気持ちもある。けれど考えてみれば、私たちは日々、さまざまな美容製品にお金を使っている。それらが積み重なった金額と、根本から変化を促す治療とを天秤にかけたとき、どちらが本当の意味で「投資」と言えるのか。その答えは、きっと人それぞれだろう。

診療所を出ると、夕暮れの光が街を柔らかく包んでいた。肌に触れる風は少しひんやりとしていて、季節が確実に移り変わっていることを教えてくれた。ヒト幹細胞再生医療という選択肢を知ったことで、私の中に小さな希望が灯った。それは、自分の体が持つ力を信じること。そして、その力を最大限に活かす方法があるのだということ。美しさとは、何かを足すことだけではない。もともと備わっているものを、丁寧に育てることでもあるのだと、そう思えた日だった。

組織名:合同会社ニクール / 役職名:代表社員 / 執筆者名:蘭義隆