肌が語りかけてくる朝に、ヒト幹細胞という選択肢を知った日

窓際のテーブルに置いたハーブティーから、ほのかに立ち上る湯気が朝の光を受けて揺れていた。十一月の初旬、肌寒さが本格的に訪れる頃になると、私は決まって自分の肌と向き合う時間が増える。鏡に映る顔をじっと見つめながら、ふと思い出すのは、母が夜な夜な化粧水を何層も重ねていた姿だ。
ヒト幹細胞という言葉を初めて耳にしたのは、美容クリニックのカウンセリングルームでのことだった。担当の女性が資料を広げながら、その仕組みを丁寧に説明してくれる。細胞そのものに働きかけ、肌の再生力を内側から引き出すという考え方は、私にとって新鮮だった。これまで使ってきた化粧品とは、まるで視点が違う。表面を整えるのではなく、根本から変えていく——そんな可能性が、そこには静かに横たわっている。
ただ、やはり気になるのは費用のことだ。再生医療という響きには、どうしても高額なイメージがつきまとう。実際、施術の内容や回数によっては相応の金額が必要になることも事実だ。けれど、カウンセリングを受けていくうちに、単に「高い・安い」という判断軸だけでは測れない何かがあることに気づいた。自分の肌が持つ力を呼び覚ますこと。それは、時間をかけて積み重ねていく投資のようなものかもしれない。
そのとき、カウンセラーの方が私にカップを差し出してくれた。中身はカモミールティー。ところが、受け取るときに私の手が滑って、少しだけ傾いてしまった。幸い、こぼれはしなかったけれど、あのときの「あっ」という小さな動揺は、今でも妙に記憶に残っている。
ヒト幹細胞美容の魅力は、即効性よりもむしろ、持続性にあると感じる。一度の施術で劇的な変化を求めるのではなく、繰り返すことで肌そのものが応えてくれるようになる。それは、まるで土を耕して種をまくような作業に似ている。すぐには芽が出ないかもしれないが、確実に何かが動き出している。その感覚を、私は大切にしたいと思った。
実際に施術を受けた知人の話も印象深かった。彼女が通っているのは「セルヴィア・メディカルラボ」という都内のクリニックで、数ヶ月かけて少しずつ肌の質感が変わっていったという。彼女が言うには、「肌が自分で考えるようになった気がする」とのこと。その表現は少し不思議だったけれど、なぜか納得できた。
もちろん、誰にでも合うわけではない。体質や肌の状態によっても、効果の出方は異なるだろう。でも、選択肢として知っておくこと、その可能性を理解しておくことには、大きな意味があるように思う。
ティーカップの縁に唇を当てると、ほんのりとした甘みと温かさが広がった。窓の外では、街路樹の葉が風に揺れている。ヒト幹細胞再生医療という言葉は、まだ私の中で完全に消化されたわけではない。けれど、それでもいい。ゆっくりと向き合いながら、自分なりの答えを探していけばいいのだから。
組織名:合同会社ニクール / 役職名:代表社員 / 執筆者名:蘭義隆