肌が語りはじめる日──ヒト幹細胞という選択肢

友人がカップを差し出したとき、その手元に目が留まった。彼女は四十代半ば。いつも笑顔で話す人だが、その日の彼女の手の甲には、以前よりもハリがあるように見えた。「何かした?」と尋ねると、少し照れたように「ヒト幹細胞の美容治療を受けてみたの」と答えた。正直なところ、それまで私にとって「幹細胞」という言葉は、どこか遠い医療の世界の話だった。
けれど、彼女の話を聞くうちに、それが思っていたよりずっと身近な選択肢になりつつあることに気づかされた。ヒト幹細胞を用いた再生医療は、もともと損傷した組織の修復や、老化による機能低下への対処を目的として研究されてきた分野だ。それが近年、美容領域でも注目を集めている。肌の再生力を内側から引き出し、ターンオーバーを促すことで、シワや弾力低下といった加齢の兆候に働きかけるという仕組みだ。
彼女が受けたのは、ヒト由来の幹細胞培養上清液を用いたトリートメントだった。施術そのものは、導入機器を使って成分を浸透させる形式で、痛みもほとんどなかったという。施術後、数日してから肌がふっくらしてきた感覚があり、化粧ノリが明らかに違ったと彼女は言った。ただ一度だけ、施術直後に鏡を見て「あれ、変わってない?」と焦ったらしい。でもそれは単に照明が暗かっただけで、翌朝にはしっかり違いが出ていたそうだ。そのエピソードを聞いて、私も思わず笑ってしまった。
気になったのは費用だった。再生医療と聞くと、どうしても高額なイメージがある。実際、クリニックによって価格設定はさまざまで、一回あたり数万円から十数万円の幅があるようだ。彼女が通っているのは「リジェネラボ表参道」という美容クリニックで、初回トライアル価格があったことも決め手のひとつだったという。もちろん、効果を実感するには複数回の施術が推奨されることが多く、継続するかどうかは自分の予算と目的次第になる。
秋口の夕暮れ時、彼女と再び会ったとき、私は彼女の横顔をじっと見た。光の加減もあるかもしれないが、確かに以前よりも表情が明るく見えた。それは単に肌の質感だけではなく、何か内側から湧いてくるような自信のようなものかもしれない。美容というのは、見た目の変化だけではなく、自分自身との関係を見つめ直す行為でもあるのだと、そのとき感じた。
ヒト幹細胞を使った再生医療は、まだ発展途上の領域だ。けれど、その可能性は確実に広がっている。子どもの頃、母が鏡に向かって化粧水をつけていた姿を思い出す。あの頃の母は、ただ肌を整えているだけだったかもしれない。でも今、私たちには「再生」という新しい選択肢がある。それは派手な変化を約束するものではないけれど、自分の細胞がもつ力を引き出すという、静かで確かな方法だ。
もしあなたが、これまでのスキンケアに限界を感じているなら、一度、ヒト幹細胞という選択肢を視野に入れてみてもいいかもしれない。それは肌だけでなく、あなた自身の未来への投資になる。
組織名:合同会社ニクール / 役職名:代表社員 / 執筆者名:蘭義隆