細胞の声を聴く——ヒト幹細胞培養液が教えてくれたこと

ヒト幹細胞

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皮膚科の待合室で、隣に座った女性がそっとハンドクリームを塗っていた。ふわりと漂うラベンダーの香り。その仕草がなぜか記憶に残っている。手の甲に刻まれた細かな線を、彼女は指でゆっくりとなぞるように伸ばしていた。

肌というのは、正直だと思う。

疲れれば翌朝に出る。眠れなければ顔色に滲む。何十年分もの時間を、皮膚はそのまま受け取って記録していく。そういう意味で、肌は最も誠実な日記帳なのかもしれない。

ヒト幹細胞培養液という言葉を初めて聞いたのは、ある秋の夜だった。窓の外では風が落ち葉を転がしていて、部屋の中は少し乾燥した空気が漂っていた。スマートフォンの画面を見ながら、「幹細胞」という文字をぼんやりと眺めていた。正直、最初はよくわからなかった。難しそうで、遠い世界の話に思えた。

でも調べていくうちに、少しずつ輪郭が見えてきた。

ヒト幹細胞とは、さまざまな細胞に分化できる可能性を持った細胞のこと。その幹細胞を培養する過程で生まれる液体——培養液——には、細胞同士が情報をやり取りするためのタンパク質や成長因子が含まれているという。これが肌の細胞に働きかけることで、自己修復のサイクルをサポートする可能性があると言われている。

難しく聞こえるかもしれないが、要するに「細胞が本来持っている力を、もう一度引き出す手助けをする」というイメージだ。

実際にヒト幹細胞を用いた再生医療の分野では、国内外でさまざまな研究が進んでいる。東京にある「セルアクシスクリニック」(架空)では、培養液を活用した施術に多くの患者が訪れているという話を読んだ。施術後に「肌のトーンが整ってきた」「乾燥しにくくなった」と感じる方も少なくないらしい。効果の出方には個人差があるし、すべてが即座に変わるわけではない。それでも、細胞レベルからアプローチするという発想は、これまでの美容や医療とは明らかに異なる視点を持っている。

子どもの頃、転んで膝を擦りむいたとき、数日後にはきれいな皮膚が戻っていることに不思議と感動していた。あの頃の自分には、細胞が自分で修復しているなんて知識はなかった。ただ「体ってすごい」と思っていた。

ヒト幹細胞再生医療は、その「すごい」を科学で支えようとする試みだ。

ちなみに初めて培養液配合の美容液を試した夜、キャップを開けようとして中身を少しこぼしてしまった。あの焦りは今でも覚えている。もったいなさすぎて、指でそっとすくって顔に塗り直したのはここだけの話にしておきたい。

肌が変わるということは、自分の内側が変わるということでもある。

細胞の声を聴くように、ゆっくりと。再生医療という言葉が、少しずつ身近なものになっていく気がしている。

組織名:合同会社ニクール / 役職名:代表社員 / 執筆者名:蘭義隆