細胞の声を聞く朝——ヒト幹細胞と再生医療が教えてくれたこと

ヒト幹細胞

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五月の終わりごろ、窓から差し込む朝の光がやけに白くやわらかかった。カーテン越しに透けた光が、洗面台の鏡をぼんやりと照らしていて、そこに映った自分の顔をしばらく見つめてしまった。ほうれい線が、また少し深くなった気がした。気のせいであってほしいと思いながら、結局そのまま洗顔を済ませた。

ヒト幹細胞は、多様な細胞に分化する能力を持っており、疾患や障害に対する治療や再生医学への応用が期待されている。
そう知ったのは、友人の紹介で足を運んだ小さなクリニックでのことだった。「セルリア・ウェルネス」という名のそのクリニックは、白を基調とした静かな空間で、受付の女性がハーブティーを差し出してくれた。陶器のカップがほんのりと温かく、手のひらに伝わるその熱が妙に心地よかった。

再生医療という言葉は、以前から耳にしていた。でも正直なところ、どこか遠い世界の話だと思っていた。難しそうで、自分には関係ないと。
従来の医療が臓器単位・症状単位での治療だったのに対し、再生医療は細胞レベルでの治療を目指す点が最大の特徴だ。
その説明を聞いたとき、なぜか子どもの頃に転んで膝を擦りむいたときのことを思い出した。何もしなくても、数日後にはかさぶたができて、いつの間にか皮膚が再生していた。あの当たり前の「回復」の仕組みを、もっと精密に、もっと深いところで活かそうとしているのが、ヒト幹細胞を使った再生医療なのだと理解した。

幹細胞を培養する過程では、タンパク質や成長因子といった生理活性物質が放出され、培養上清液にはこれらの有効成分が豊富に含まれている。培養上清液には細胞が含まれないため、拒絶反応や細胞のがん化リスクが極めて低いとされている。
そのことを知ったとき、少し安堵した。「体に入れる」という言葉に身構えていたけれど、仕組みを丁寧に説明してもらうと、怖いというより、むしろ興味が勝ってきた。

幹細胞治療では、炎症を抑え、免疫の異常反応を正常化したり、損傷した臓器の修復を助けるといった効果が期待されている。
変形性膝関節症やパーキンソン病など、
これまで治療の選択肢が限られていた疾患に対して、新たな光を当てている。

クリニックを出て、駅までの道を歩きながら、スマートフォンで調べると、美容の分野でもヒト幹細胞への注目が高まっていることがわかった。
ヒト幹細胞培養液には、幹細胞が分泌した成長因子やサイトカインといった有効成分が含まれており、肌の自己修復力をサポートすることが期待されている。肌の自己修復力は加齢とともに低下していくものだが、ヒト幹細胞培養液にはこの働きを補う成分が豊富に含まれているとされている。

ところで、クリニックで渡されたパンフレットを読み返していたら、うっかりハーブティーのカップを膝の上に置いたまま立ち上がろうとして、中身がこぼれそうになった。「あぶない」と思って慌てて受け止めたものの、その瞬間に「細胞レベルで整えるより先に、まず自分の動作を整えた方がいいかもしれない」と心の中でひとりツッコんでしまった。

ヒト幹細胞とその培養技術は、これからの医療・美容・健康の常識を大きく変えていく本格的な技術だ。
それは確かだと思う。ただ、大切なのは焦らずに、自分の体と向き合いながら、正しい知識を持って選択することではないだろうか。再生医療の世界は、まだすべてが解明されたわけではない。でも、細胞が持つ力への敬意と、それを活かそうとする医療の誠実さは、あの朝の白い光の中で、確かに感じることができた。

組織名:合同会社ニクール / 役職名:代表社員 / 執筆者名:蘭義隆