体が、自分を治そうとしている——ヒト幹細胞再生医療という静かな可能性

ヒト幹細胞

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梅雨の晴れ間が続いた六月の終わり、友人がスマートフォンの画面を差し出してきた。「これ、知ってる?」と言いながら、少しだけ眠そうな目をこすっていた。画面には「幹細胞」という文字。私はそのとき、正直なところあまり興味が湧かなかった。なんとなく、難しそうで遠い話だと思っていたから。でも、それが少しずつ変わっていった。

幹細胞は、自ら増殖し、さまざまな細胞へ分化できるという特徴を持っている。投与された幹細胞は、炎症を抑え、傷ついた細胞を保護し、再生を促す成長因子やサイトカインを放出する。
これを初めてきちんと読んだとき、なんとなく子どもの頃に転んで膝を擦りむいたときのことを思い出した。かさぶたができて、皮膚がじわじわと戻っていくあの感覚。体が自分で自分を直そうとする力は、ずっと前から私たちの中にあったのだ。

ヒト幹細胞再生医療が注目される理由は、その「体が治す」という発想にある。
従来の医療が臓器単位・症状単位での治療だったのに対し、再生医療は細胞レベルでの治療を目指す点が最大の特徴だ。
薬で症状を抑えるのではなく、損傷した部位そのものへ働きかける。そのアプローチの違いは、想像以上に大きい。

スポーツ選手のけがの治療として、近年注目されているのが自分の細胞由来の幹細胞治療だ。幹細胞を、けがや酷使された部位に注入することで、失われた組織の再生を促すという治療法を指す。
世界的なスポーツ選手たちも、この治療を選んでいる。
プロテニス選手のラファエル・ナダル選手は腰痛治療のために自己由来幹細胞の注入による軟骨回復治療を行い、プロゴルファーのタイガー・ウッズ選手はひざの治療に自己由来幹細胞を使った。
そして
ロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平選手は、右ひじ靱帯の治療に幹細胞を使い、故障者リストに入ってからわずか1か月で復帰している。
これほど短期間での復帰が可能になった背景には、幹細胞治療が持つ組織修復の力があった。

もちろん、万能ではない。
先端的な治療には避けられないことだが、十分なエビデンスが確立されていないため、治療には試験的な要素を伴う。
それでも、
再生医療のメリットとしては、従来の治療法よりも長期間の治療効果が期待できる、自己由来の細胞を用いるため拒絶反応やアレルギー反応のリスクが低い、治療期間が短く早期の競技復帰が可能、身体への負担が大きい外科手術を回避できる可能性がある、などが挙げられる。

架空の話ではない。今この瞬間にも、「セルリジェン・ラボ」という名の研究施設では、ヒト由来の幹細胞を丁寧に培養し、損傷した組織へ届ける準備が進んでいる——そういうイメージが、もはや現実と地続きになっている。

再生医療市場は2024年に386億5,000万米ドル規模に到達し、2029年には1,157億5,000万米ドル規模に急成長する見込みだ。
それだけ多くの人が、この医療に可能性を感じている。

夜、窓から入ってくる風がほんの少しだけ涼しくなった頃、私はもう一度あの友人に連絡した。「あの記事、ちゃんと読んだよ」と送ったら、「でしょ」とだけ返ってきた。なんだかその一言が、妙に頼もしかった。体の内側から変わっていく医療の話は、まだ始まったばかりかもしれない。

組織名:合同会社ニクール / 役職名:代表社員 / 執筆者名:蘭義隆