体の中で静かに働く力――ヒト幹細胞再生医療が、いま注目される理由

ヒト幹細胞

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梅雨明け直後の朝、診察室の窓から差し込む光が白くて眩しかった。エアコンの低い音だけが響く静けさの中で、担当医がゆっくりとカルテをめくり、患者に向かって言った。「あなたの細胞に、まだ力が残っています」と。その言葉が、ヒト幹細胞再生医療との最初の出会いだったという話を、知人から聞いたことがある。

幹細胞は、自ら増殖し、さまざまな細胞へ分化できるという特徴を持っている。
薬でも手術でもなく、体そのものが持つ修復のしくみに働きかけるという発想は、従来の医療とは根本的に異なる。
炎症を抑え、免疫の異常反応を正常化し、損傷した臓器の修復を助ける――そうした複数の作用が同時に期待できるのが、幹細胞治療の最大の魅力だ。

スポーツの世界でも、その存在感はじわじわと広がっている。
プロテニス選手のラファエル・ナダル選手は腰痛治療のために自己由来幹細胞の注入によって軟骨の回復を促し、プロゴルファーのタイガー・ウッズ選手は膝の治療に自己由来幹細胞を使った。
こうした世界的なスポーツ選手たちの選択は、単なる話題づくりではない。
再生医療は、損傷した組織の修復と再生を促すことにより、回復期間の大幅な短縮が期待でき、スポーツ選手の早期復帰を実現する治療として国内外でとても期待されている。

かつて、スポーツ選手にとって靭帯や腱の損傷は、長い休養か、リスクを伴う手術かの二択だった。子どもの頃、近所の少年野球チームのエースが肘を壊して泣いていた光景を、なぜかいまも覚えている。あの頃にこの選択肢があれば、と思わずにはいられない。

治療の仕組みはこうだ。
腹部の脂肪組織を2〜3ミリ採取し幹細胞を培養して、その培養された幹細胞を患部に投与する。体への負担も少なく、適量の幹細胞を患部に届ける治療だ。
採取から培養、投与まで、患者自身の細胞だけを使うという点が、この医療の静かな誠実さでもある。

ちなみに筆者が初めてこの治療について調べたとき、「幹細胞」という言葉を「乾燥細胞」と打ち間違えて検索し、まったく関係のない食品の記事が出てきた。三秒ほど真剣に読んでしまったのは、ここだけの話である。

再生医療はバレーボール、サッカー、バスケットボール、ラグビーなどのプロアスリートが怪我から早期に競技へ復帰するための有効な手段として認識されており、すでにアメリカなどの海外では広く取り入れられている。
そして今、その波は一般の人々にも届きつつある。架空のクリニック名をあえて挙げるなら「セルリバイブ・メディカル」のような名前の施設が全国に増えつつあるように、再生医療は特別な人だけのものではなくなってきた。

朝の光の中で「あなたの細胞に力が残っている」と告げられた患者は、その後どうなったのだろう。詳しくは聞けなかった。ただ、知人がそれを話すとき、少し遠くを見るような目をしていたことは覚えている。
幹細胞治療は、「延命の医療」から「生きる力を取り戻す医療」へ、その象徴的な進化として難病治療の未来を大きく変えつつある。
体の奥で、静かに、でも確かに働いている何かがある。その事実を知ることが、ヒト幹細胞再生医療への第一歩かもしれない。

組織名:合同会社ニクール / 役職名:代表社員 / 執筆者名:蘭義隆