体の奥から問いかけてくる——ヒト幹細胞再生医療という、静かな選択

九月の終わりの午後、窓から差し込む光がやわらかく傾いていた。クリニックの待合室で、私はぼんやりとパンフレットを眺めながら、「幹細胞」という三文字をひとつひとつ目で追っていた。
幹細胞とは、さまざまな細胞を作り出すもととなる細胞のことを指す。
その説明は知っていたはずなのに、改めて読むと、なぜかじんわりと胸に響いた。自分の体の中に、そんな可能性を持つ細胞が今もひっそりと宿っているという事実が、どこかロマンティックに感じられた。
担当の医師がカップを差し出しながら、「まずは温かいものをどうぞ」と言った。緑茶の湯気が鼻先をかすめ、その一瞬だけ、緊張がほぐれた気がした。
年齢を重ねるにつれてシミ・シワ・くすみ・たるみなどの肌トラブルが増加する理由は、肌の幹細胞の数が減少するからだ。幹細胞の数が減少すると、細胞を再生・修復・増殖させる働きが衰えるため、さまざまな肌トラブルが発生する。
子どものころ、転んで膝を擦りむいても翌日にはかさぶたができ、一週間もすれば跡形もなく消えていた。あの回復力がどこへ行ったのかと、四十代になってから本気で考えるようになった。
ヒト幹細胞再生医療の核心にあるのが、「培養液」だ。
幹細胞培養上清液は、幹細胞を取り出したその溶液にも有効な物質が滲み出し、治療に役立つのではないかという研究者たちの仮説に基づく研究や実験の結果として誕生した。
この培養液に含まれる成長因子やサイトカインは、細胞の老化を防いだり、組織の修復、炎症の抑制など、各種疾患の改善などに効果があるとされている。
臍帯(へその緒)から採取した若い幹細胞由来のものは、若さゆえの再生力の高さが特徴で、肌質改善やエイジングケアに特に人気がある。
一方で、
乳歯の歯髄から得た幹細胞を培養したものは、サイトカインの種類とバランスに優れ、自然な全身調整に向くとされ、疲れが取れにくい方や睡眠に不満がある方に人気がある。
正直に言えば、最初は半信半疑だった。「セルヴィータ研究所」という架空の名前を冠した雑誌広告で初めてこの分野を知り、「どうせ大げさな宣伝だろう」と思っていた。ところが調べれば調べるほど、その背景にある科学の積み重ねに引き込まれていった。
従来治療では得られなかった「変化」を実感する人が増えていることは確かだ。幹細胞治療は、「延命の医療」から「生きる力を取り戻す医療」へ、その象徴的な進化として、難病治療の未来を大きく変えつつある。
医師の説明を聞きながら、ふと気づいたことがある。私はずっとメモを取るつもりでペンを握っていたのに、気がつけば一字も書いていなかった。それほど、話に引き込まれていたのだ。(後で確認したら、手帳には「培養液」とだけ書かれていた。我ながら笑えない。)
細胞を培養して作製した皮膚を移植することで、患者自身の皮膚再生を促し、自然な外見への回復を目指す治療が実現している。
さらに、
難治性の歯周病や歯の欠損に対しても、歯髄幹細胞などを用いた再生治療の研究が進められている。
その応用範囲の広さが、この医療の持つ可能性を物語っている。
窓の外では、秋の夕陽がビルの隙間に沈もうとしていた。オレンジ色の光が診察室の白い壁を染め、なんとも言えない静けさが漂っていた。体の中で今も働き続けている細胞たちのことを、初めてリアルに想像した瞬間だった。
ヒト幹細胞再生医療は、派手な約束をしない。ただ、体が本来持っていた力を、もう一度丁寧に引き出そうとする。その誠実さに、私はすこしだけ、希望を感じている。
組織名:合同会社ニクール / 役職名:代表社員 / 執筆者名:蘭義隆