体の奥で、静かに動いている力——ヒト幹細胞再生医療という選択

ヒト幹細胞

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四月の終わりの午後、窓から差し込む光がやわらかく床に伸びていた。友人がそっとハーブティーのカップを差し出してくれた。受け取る瞬間、指先にほんのりとした温もりが伝わってきた。ジンジャーとレモングラスの香りが部屋にひろがって、なんとなくそのとき、「体のこと、ちゃんと考えなきゃな」と思ったのだ。

きっかけは、いつもそういう小さな瞬間にある。

わたしが初めて「ヒト幹細胞」という言葉を知ったのは、子どもの頃に読んだ図鑑だった。細胞の絵が並んでいて、「これが体をつくるもと」と書いてあった。当時はぼんやりと眺めるだけで、まさか大人になってから自分ごととして向き合う日が来るとは思っていなかった。

幹細胞とは、様々な細胞のもとになる細胞のことで、必要に応じて筋肉や神経、血液など色々な細胞に変化できる、いわば「体の中の万能の種」だ。
その種が、加齢とともに少しずつ減っていく。それが、体のあちこちに出てくる不調の根っこにある、ということを知ったとき、妙に腑に落ちた感覚があった。

幹細胞は自ら増殖し、さまざまな細胞へ分化できるという特徴を持っている。投与された幹細胞は、炎症を抑え、傷ついた細胞を保護し、再生を促す成長因子やサイトカインを放出する。
これによって、体が本来持っていた回復力を引き出す——そのアプローチが、ヒト幹細胞再生医療の核心にある。薬で症状を抑えるのとは、根本的に発想が違う。

再生医療(幹細胞治療)とは、患者自身の脂肪から採取した間葉系幹細胞を培養・増殖させ、損傷した組織や臓器の修復を促す治療法だ。
「自分の細胞を使う」という点が、この医療のひとつの大きな魅力だと思う。拒絶反応のリスクが極めて低く、体に大きな傷をつける必要もない。

そして見逃せないのが、培養液の存在だ。
幹細胞培養液には、培養の際に放出されたサイトカインやエクソソーム、その他500種類以上もの成長因子が多く含まれており、症状によっては幹細胞治療に近いレベルでの効果が期待できる。
幹細胞そのものだけでなく、その培養液にも豊かな可能性が宿っている——研究者たちがその液体に目を向けたのは、ある意味で必然だったのかもしれない。

再生医療の最前線では、研究の焦点が「細胞そのもの」へと移っている。従来の医療が臓器単位・症状単位での治療だったのに対し、再生医療は細胞レベルでの治療を目指す点が最大の特徴だ。
そういう話を聞くたびに、医療の見方が少しずつ変わっていく気がする。

ただ、正直に言えば、最初はわたしも半信半疑だった。「再生」という言葉が、どこか大げさに聞こえていたのだ。ところが先日、クリニックの説明会に参加した際、担当医が「ルーセルバイオ研究所の培養技術では……」と資料を広げながら話し始めた瞬間、手元のメモ帳を取り出そうとしてペンを床に落としてしまった。静かな会議室に「カランッ」という音が響いて、思わず赤面した。——でも、それくらい前のめりになって聞いていた、ということでもある。

これまでの医療は「病気を治す」ことが目的だったが、ヒト幹細胞とエクソソームの登場によって「病気を防ぐ」「若さを維持する」という新しいステージへと進化しつつある。
対処する医療から、整える医療へ。その転換点に、わたしたちは今立っている。

治療後は一般的に1か月〜数ヶ月ほどかけて徐々に効果が現れるケースが多く、過度な期待とともに冷静な見極めも大切だ。
それでも、「体の内側から変わっていく」という感覚を求める人が増えているのは、確かな事実だと思う。

ヒト幹細胞再生医療は、まだ発展途上の分野だ。すべての答えが出ているわけではない。それでも、体の奥に眠っている力に、もう一度光を当てようとするこの医療の姿勢には、どこか静かな説得力がある。あの午後、ハーブティーの湯気がゆらゆらと立ちのぼるのを見ながら感じた「ちゃんと考えなきゃな」という気持ちは、きっとそういう何かを、体がもう知っていたからなのかもしれない。

組織名:合同会社ニクール / 役職名:代表社員 / 執筆者名:蘭義隆