自分の細胞が、静かに働きはじめる——ヒト幹細胞再生医療という選択

四月の終わり、窓の外に柔らかい光が差し込む午後のこと。ふと手の甲を見て、「あ、少し変わったかもしれない」と思った瞬間があった。特別なことは何もしていない。ただ、数週間前にクリニックを訪れ、ある治療を受けていただけだ。
再生医療とは、わたしたちの細胞が持つ再生力を活用して、傷ついた組織や失われた機能を元通りに戻すことを目的とした医療技術だ。
言葉にすると少し難しく聞こえるけれど、要するに「体がもともと持っている力を、もう一度呼び起こす」ということに近い。
その中でも近年、とりわけ注目を集めているのがヒト幹細胞を用いた治療である。
幹細胞はもともとわたしたちの体の中にある細胞で、代表的なものに「間葉系幹細胞」がある。以前は骨髄由来の幹細胞治療が多かったが、最近では脂肪由来の幹細胞を用いた治療が多く取り扱われている。
脂肪由来の幹細胞の含有量は骨髄由来に比べて500倍と非常に多く、増殖力が高いことに加え、臓器修復に有効な成長因子の種類が多いことから、現在の再生医療の主流として多くのクリニックで様々な治療法に活用されている。
500倍、という数字を最初に聞いたとき、正直「本当に?」と心の中で軽くツッコんでしまった。でも、これは研究に裏づけられた話なのだ。
施術の流れは、思っていたよりずっと穏やかだった。消毒液のひんやりとした冷たさが腕に触れ、点滴のルートが確保される。天井の白い照明がやわらかく目に映り、担当の看護師さんがカルテを手にしながらそっとカーテンを引いてくれた——その所作のひとつひとつが、不思議と安心感を連れてきた。「ヴェルデ・セルム」という名の培養上清液が、静かに体の中へ流れていく感覚。痛みはほとんどない。
幹細胞治療は、組織の修復・再生に関わる「幹細胞」を補充することで、傷ついた組織や失われた機能の回復を目指す再生医療のひとつであり、自身の細胞を利用するため拒否反応のリスクや副作用も少ない治療とされている。
幹細胞を全身に投与すると、身体の中の損傷・老化した部位に幹細胞が集まり、必要な細胞へと変化して患部の修復・再生をする。
体の中で、見えない何かが少しずつ動いている——そんな感覚は、決して大げさな表現ではないと思う。
再生医療は、疾患治療だけでなく、予防医療への応用も期待されている。細胞老化や老化に伴う器官の機能低下を防止するための治療法としての可能性も注目されている。
つまり、何か大きな病気を抱えた人だけのものではない。もっと日常に寄り添う医療として、少しずつ身近になってきているのだ。
おすすめのクリニックを探すとき、大切なのは「厚生労働省への届出がきちんとなされているか」という点だ。
幹細胞治療をおこなうためには、厚生労働省が認めた特定認定再生医療等委員会による審査が必要で、実施するクリニックの管理体制や細胞の採取環境など様々な面で審査がなされ、適切と判断されて初めて幹細胞の治療をおこなうことができる。
安心して身を委ねるためにも、この確認は欠かせない。
子どもの頃、転んで膝を擦りむくたびに、翌朝にはかさぶたができていた。あの小さな「治り」の仕組みが、実は幹細胞によるものだったと知ったのは、ずっと後のことだ。
怪我をしてかさぶたが剥がれ落ちても、その下に新しい皮膚があるのは、組織の中に新しい細胞を補充する役割を持つ幹細胞があるからだ。
体はずっと、自分自身を守ろうとしていた。再生医療は、その力をもう一度、丁寧に引き出す試みなのかもしれない。窓の外の光は、いつの間にか夕方の橙色に変わっていた。
組織名:合同会社ニクール / 役職名:代表社員 / 執筆者名:蘭義隆